福島県からの自主避難における賠償など法的支援

RSS
facebook
twitter
お問い合わせ

意見書

▶意見書の一覧へ

原発事故子ども・被災者支援法基本方針改定案に対するコメントを提出しました
2015年8月10日

福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)は、8月8日、下記のとおり、原発事故子ども・被災者支援法基本方針改定案に対するコメントを提出しました。

 

「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(改定案)」に対する意見

2015年8月8日

福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク

○避難に対する支援の継続
(対象部分)Ⅰ最終段落(2ページ)
(意見)定住のみならず、定住・帰還をいまだ決断していない避難者に対する支援も引き続き継続するべきである。
(理由)避難先での一時的な生活が被災者に負担をかけているのは事実ですが、被災者の中には、放射線量の低減状況や福島第一原発の廃炉作業などを勘案しながら、いまだに定住・帰還を決断していない避難者も多数存在します。定住のみならず、一時的な避難が今後も継続することを前提として、避難者に対する支援も引き続き継続することを明記すべきです。

○「避難する状況にはなく、支援対象地域は縮小又は撤廃することが適当である」の削除
(対象部分)Ⅱ第3段落(3ページ)
(意見)「以上に鑑みれば~考えられる。」の段落をすべて削除すべきである。
(理由)
1 そもそも、支援対象地域は、年間1ミリシーベルト以上の追加被ばくのおそれのある地域を含む自治体すべてを指定すべきであり、前回基本方針策定の際には、少なくとも、放射性物質汚染対処特措法に基づく汚染状況重点調査地域に指定されたことのある自治体のすべてを指定すべきでした。
現在も、復興庁が作成した空間線量率に関する資料に基づいても、年間1ミリシーベルト以上の追加被ばくのおそれのある地域は広範に広がっており、また復興庁の資料からは欠落しているものの、福島県外にも広がっていることは明らかです。このような状況の中、支援対象地域は、むしろさらに拡大されるべきであり、縮小・撤廃することが適当であるとは言えません。
2 支援法は、避難するか否かの選択を被災者自身が行うことができるよう適切な支援を行うことを理念として定めています(2条2項)。「避難する状況にない」と政府が一方的に判断することは、そもそも支援法の理念に反するものです。
3 改定案には、「法の規定上も『放射線量に係る調査の結果に基づき、毎年支援対象地域等の対象となる区域を見直すもの』とされており、線量の低下に伴って支援対象地域を縮小することを予定していたものと考えられる。」との記載があります。しかし、支援法の国会審議における提案者の見解によれば、支援対象地域の見直しに関する附則は、「一定の線量」を1ミリシーベルトに向けて徐々に下げていくことを意図して設けられたものです。附則の規定を根拠に、支援対象地域の縮小が予定されていたということはできません。
4 なお、改定案と同時に公表された参考資料には以下の問題があります。このような科学的根拠の乏しい資料に基づく「支援対象地域は縮小又は撤廃することが適当である」との判断は、合理性を欠いています。
(1) 外部被ばく線量の推計方法においては、空間線量に一定の係数をかけることにより実効線量を計算する方法が取られています。この考え方は、空間線量で場の線量を管理し、さらに個人の実効線量により個々の被ばく線量を管理するという、二重の管理によって安全性を担保しようとする放射線防護の基本的な考え方を無視しています。
(2) 上記推計方法においては、屋内は屋外の空間線量率の0.4倍であるとの前提が取られています。この0.4倍との低減係数は、原発事故直後の、屋外のみに放射性物質が存在する状況を前提として提案されているものです。しかし、原発事故から4年以上が経ち、放射性物質は室内にも定着しており、特に現に居住の用に供されている家屋においては、この低減係数を利用することは不適切です。
(3) 個人被ばく線量測定結果については、そもそも個人被ばく線量の測定は、より被ばく線量の高い個人を特定し防護策を検討するために行われるべきであること、個人被ばく線量の「平均値」への依拠は集団の中で被ばく線量の高い者への防護の必要性を無視するものであること、これら測定事業において対象者が正しく 個人被ばく線量計を身につけていなかったとの指摘がなされており数値の正確性にも疑問があるなどの問題が存在します。個人被ばく線量測定結果に基づき避難の合理性を判断すべきではありません。

○住宅支援の継続
(対象部分)Ⅲ第1・第2段落((4-5ページ)
(意見)①応急仮設住宅の供与期間をさらに延長すべきである。②現在行われている公営住宅の入居円滑化について、特定入居を認め被災者が利用しやすい制度とすべきである。③応急仮設住宅の供与期間後の支援策について、国の責任において激変緩和策を取るべきである。
(理由)
①福島県は、自主避難者向けの応急仮設住宅の供与期間を平成29年3月までとすると発表しました。しかし、特に母子避難等二重生活を強いられている世帯を中心に、いまだに住宅支援を必要としている世帯は多く、応急仮設住宅の供与打ち切りは、望まない帰還につながる危険性がきわめて高く、打ち切りは時期尚早です。政府は、福島県のこのような決定を是認すべきではありません。
②支援法は、避難者に対する住宅の確保に関する施策を国が講じることとしています(9条)。これに基づき実施されている唯一の政策が公営住宅の入居円滑化です。しかし、入居円滑化にあたって、国土交通省が、抽選なしで優先的に入居できるいわゆる「特定入居」を適用しないよう自治体に求めたことが報道で明らかになっており、施策としての有効性はきわめて疑問です。自主避難者向けにも特定入居を認めるよう、自治体に通知すべきです。
③仮に応急仮設住宅の供与が福島県の発表どおり打ち切られるとすると、上記のとおり多くの避難者が望まない帰還を強いられることになります。国の責任において住宅の確保に関する施策を講じることを求めている支援法9条に基づき、国は、応急仮設住宅の供与期間終了との支援策について、福島県の検討にゆだねることなく、自ら制度化し予算措置を行うべきです。

○福島県外での健康調査の実施
(対象部分)Ⅲ第3~5段落(5ページ)
(意見)支援法13条の規定に従い、少なくとも汚染状況重点調査地域に指定されたことがある自治体において、甲状腺検査を含む健康診断を実施すべきである。
(理由)
1 支援法13条2項は、被災者の健康診断の実施について国が必要な施策を講じることとしており、「少なくとも、子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む。)及びこれに準ずる者」に係る健康診断について、生涯にわたって実施されるよう必要な措置を取ることを求めています。政府は、現在のところ、この「一定の基準以上の放射線量」すら定めず、福島県内のみで行われている福島県民健康調査を財政的・技術的に支援しているのみです。現状は、支援法の反する違法な状態であると言わざるを得ません。
2 福島県外で健康調査を行わない理由として、環境省専門家会議の中間とりまとめは、被ばく線量、特に放射性ヨウ素による被ばくが福島県内より低いとの根拠しか示していません(同32ページ)。しかし、福島県内で行われている甲状腺検査によって多数の甲状腺がんが発見されていることについて、福島県県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会は、罹患統計から推計される有病数と比較して数十倍のオーダーで多く、被ばくによる過剰発生の可能性は否定できないとする中間とりまとめを公表しています。これによれば、「福島県より被ばく線量が低いこと」は、甲状腺検査を含む健康診断を行わない理由とはならないはずです。
3 政府は、支援法の条文にしたがい、福島県外においても一定の線量以上の放射線量が計測された地域における健康診断を、国の責任において実施すべきです。実施に当たっては、少なくとも汚染状況重点調査地域に指定されたことがある自治体に居住していた子どもを対象とすべきです。

○定住支援策の明記
(対象部分)Ⅲ第7段落(5-6ページ)
(意見)定住支援策として、就労の支援のほか定住に伴って発生する費用・損害を一律・一括で賠償させるなどの具体的な施策を明記すべきである。
(理由)
改定案は、避難生活の長期化による生活上の負担を解消するために定住支援を重点として打ち出しています(2ページ)。避難先での定住が、避難の継続や帰還と並ぶ避難者の選択肢の一つとして位置づけられる限りにおいて、定住支援は歓迎されるべき方向です。しかし、改定案には、具体的な定住支援策が盛り込まれていません。
改定案において、重点的に取り組むとする定住支援について、具体的な施策を盛り込むべきです。その際には、特に二重生活を強いられている世帯について、定住先での就業の支援に行うと同時に(9条)、定住に伴って発生する様々な費用・損害について、これを東京電力により一律・一括で賠償させるなど、円滑な定住を可能とする施策を盛り込むべきです。

○被災者からの意見聴取のあり方について
(対象部分)全体
(意見)①より多くの地域において公聴会を開催し、改定案に被災者の意見を反映させるべきである。②改定案にはより具体的な施策を列挙し、支援法に基づく施策の具体的な内容について被災者の意見を反映させるべきである。
(理由)
①支援法は、基本方針の改定にあたっても、被災者・避難者の意見を反映させるために必要な措置を講じることを求めています(5条5項、3項)。改定案については、すでに東京と福島市で説明会が行われましたが、原発事故による避難者は全国に広域避難しており、この2カ所だけでは不十分であることは明らかです。全国各地で被災者の意見の聴取を行うべきです。また、説明会ではなく、被災者の意見を聴取するための公聴会と位置づけるべきです。
②支援法14条は、支援法に基づく「施策の具体的な内容」についても、被災者の意見を反映し施策の形成過程を透明性の高いものにすることを求めています。しかし、今回の改定案には、支援法に基づく具体的な施策として何が行われるのかがほとんど盛り込まれておらず、具体的な施策について被災者が意見を述べることが困難となっています。政府は、改定案を根本的に見直し、個別施策についても被災者の意見を反映させるべく、改めてパブリックコメントや公聴会等を実施すべきです。

ページトップへ