福島県からの自主避難における賠償など法的支援

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意見書 ー震災から4年を迎えてー
2015年3月11日

東日本大震災の発生から4年が経過しました。被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。そして被災された方々への支援、被災地の復興に向けて日々尽力されている方々に深く敬意を表します。
東日本大震災では、東京電力福島第一原子力発電所において深刻な事故が発生し、この原発事故に起因する放射線被ばくの問題は、今なお継続しており、震災後4年を経過する中、避難生活の長期化をはじめとして、その被害は深刻化、複雑化しています。このような実情を踏まえ、自主避難者を支援してきた法律家の立場から、課題の解決に向けて取り組むべきことを意見書として取りまとめましたので、ここに発表致します。

1 原発事故から4年―現状と課題
(1)未だに全体像がつかめない原発事故の被害
 現在、原発事故に伴う政府避難指示区域は、年間線量50ミリシーベルト超の「帰還困難区域」、同20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下の「居住制限区域」、同20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」の3区域に再編されています。これに加えて、事故発生後1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超えると推定される地点は、世帯ごとに「特定避難勧奨地点」に指定されていました。
しかし、政府避難指示区域だけが放射線被ばくの影響を受けるわけではありません。政府避難指示区域外から避難する人や、避難しない場合でも、被ばくを避けるような生活を余儀なくされている人は大勢います。政府避難指示区域外からの避難者、いわゆる自主避難者については、政府の支援施策や東京電力からの賠償も十分ではありません。また、自主避難している人については、政府による人数の正確な把握すらできていません。最近になって、埼玉県や神奈川県で、避難者の再調査や数え方の変化によって大幅に避難者の人数が増えました。
 原発事故発生から4年を経て、これから避難指示解除が進むに連れて、早期帰還しない人たちは、自主避難者と同じ状況に置かれるおそれがあります。今、求められているのは、政府避難指示区域の内外を問わず、原発避難の実態を正確に把握し、現実を直視した支援施策を実行することです。

(2)原発事故被災者が直面する喫緊の課題
①健康影響に対する不安
 放射線被ばくの影響による健康への不安は、現在も解消されていません。福島県内では健康調査が実施されていますが、環境省に設置された専門家会議は、福島県や近隣の県でがん発生率の上昇が見出される可能性は低く、他の病気についても同様と評価した上で、福島県民を対象とした甲状腺検査は継続しつつ「疫学的追跡調査」として充実させることが望ましいとする中間とりまとめを公表しました。しかし、このような見解には、「福島県の甲状腺検査における多発や深刻な症例を検討していない」、「甲状腺検査を疫学追跡調査へ見直すようにというのは、個々人の健康管理がないがしろにするものだ」といった厳しい批判がなされています。福島県外に至っては、当初から放射性プルームの影響が指摘されているにもかかわらず、十分な健康調査の体制が整えられないまま今日を迎えており、住民からの不安の声は尽きません。

②深刻化する住宅問題
 これまで避難者の住宅確保については、災害救助法にもとづき居住期間を1年ごとに延長するという運用がなされてきました。しかし、原発事故から4年が経過し、避難者に対する住宅支援が打ち切られつつあります。また、仮設住宅は原則として借り換えができないために、この4年間で子どもが成長し、また新しい子どもが産まれたことによって、当初に入った住宅では生活が難しくなる状況が生じています。避難者からは、仮設住宅や借り上げ住宅の入居期間の延長や柔軟な借り換えを求める切実な声が上がっています。 

2 課題の解決に向けて
(1)「被ばくを避ける権利」の実現を
 私たちは、「被ばくを避ける権利」の実現に向けて、特に住宅と医療の問題に力を入れて取り組んできました。2012年6月21日の「原発事故子ども・被災者支援法」の成立は、この「被ばくを避ける権利」の実現に向かう大きな一歩であり、目にみえない放射線の影響を懸念し、不安を抱いている被災者の希望の光となることを期待させるものでした。しかし、その施策の具体化に向けた動きは遅滞を極め、ようやく公表された「基本方針」も、支援対象地域を極めて限定的に設定し、支援の内容についても既存の施策を踏襲することを表明したに過ぎません。それは、支援法が求めている、原発事故の影響を受けた地域の住民・避難者からの意見を反映させるための措置もとられていないというものであり、被災者の支えとなるにはあまりにも不十分なものでした。
 原発事故に伴う避難生活あるいは放射線を考慮して生活せざるを得ない状況は、事故の発生から4年が経った現在も続いています。その中で、避難指示が一部解除されるなど、帰還に向けた動きが進められていますが、放射線量に関して事故前の状態が回復されたわけではありません。
このような状況の今日だからこそ、原発事故子ども・被災者支援法の目的(同法第1条)で明記されたように「放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと」を基本として、被災者の生活を守り支えるための支援施策を推進し、被災者の不安の解消及び安定した生活の実現をしていくことが必要だと考えます。

(2)喫緊の課題への取り組み
①予防原則に立ち国の責任で健康調査を実施すること
 原発事故による放射性物質の健康への影響に関して行われる各種健康調査や検査については、福島県ではなく国が責任をもって取り組み、福島県外も含めた調査を行うともに、その結果を公開するべきであると考えます。健康調査について、環境省は一貫して福島県外では実施しないという方針をとっていますが、放射線物質による汚染は福島県の内外に広がったのであり、県境のみをもって健診対象の区分を行うことは合理性を欠いています。汚染状況重点調査地域の住民には、子供の将来に不安を感じている方も少なくなく、私費を投じて健康調査を受診しているという訴えもあり、早急な対応が必要です。

②住宅の確保を実現して生活の基盤を守ること
 私たちは、原発事故の長期化に鑑みて、新たな立法措置を含め、避難者に対してより恒久的な住宅支援ができる仕組みをつくることが急務であると考えます。また、この4年の間に避難者の生活実態や意向、家族構成などは刻々と変化しています。仮設住宅や借り上げ住宅の更新や住み替えについて、現行の硬直的な運用を見直し、避難者のニーズにより柔軟に対応し得る仕組みが実現される必要があることは論を俟ちません。

③被災者の声を反映した支援を実現する仕組みをつくること
 住宅の確保や適切な健康管理という人々の生活再建における基礎をつくる施策を講じるにあたって、国には今以上に被災者の声に十分に耳を傾け、これを汲みとろうとする姿勢が求められます。施策内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものとし、そこに被災者の意見を反映していくことができるようにするための仕組みが早急に整備される必要があります。

私たちは、今後も多くの被災当事者や支援者と連携しながら、「被ばくを避ける権利」の実現のために、必要な取り組み、働きかけを行っていきます。

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