福島県からの自主避難における賠償など法的支援

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自主的避難に係る和解仲介手続に関する意見書
2012年5月31日

私たちは、本日、以下の意見書を提出しました。

自主的避難に係る和解仲介手続に関する意見書
2012年5月31日

原子力損害賠償紛争審査会
会長 能見善久様、委員各位
原子力損害賠償紛争解決センター 統括委員会
総括委員長 大谷禎男様、総括委員 鈴木五十三様、総括委員 山本和彦様
原子力損害賠償紛争解決センター 原子力損害賠償紛争和解仲介室
室長 野山宏様

福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)
共同代表       梓 澤 和 幸
同          河 﨑 健一郎
副代表        福 田 健 治
事務局長       大 城  聡
運営委員(担当)   江 口 智 子

第1 意見の趣旨

1 自主的避難者に対しては、中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)の趣旨に従って、同追補の目安額にとらわれることなく、「個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害」については東京電力が賠償を行うよう、センターによる適切な和解の仲介を求めます。

2 和解仲介手続において、申立人の請求額の一部ないし全部を減額した和解案を提示する場合には、仲介委員は、和解案に含まない費目の内訳及びこれを含まない理由を示すなど、申立人に適切な説明を行ってください。

第2 意見の理由

1 自主的避難に係る考え方
中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)(以下、単に「中間指針追補」と言います)では、「第1 はじめに」の「2 基本的考え方」において、「本件事故と自主的避難等に係る損害との相当因果関係の有無は、最終的には個々の事案毎に判断すべきものであるが、中間指針追補では、本件事故に係る損害賠償の紛争解決を促すため、賠償が認められるべき一定の範囲を示すこととする。なお、中間指針追補で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。」として、個別具体的な事情に応じた判断をすることを原則としています。
また、平成23年12月6日に実施された第18回原子力損害賠償紛争審査会において、能見会長は、「ADRのことは書いてありませんけれども、個別的な損害でもって相当性が証明できるものは賠償の対象にはなるんだという前提で考えておりますので、ADR等でそういう考え方が利用されるということを確認しておきたいと思います。」と発言し、原子力損害賠償紛争解決センターでの和解仲介申立において、中間指針追補が示す目安額にとらわれることなく、個別賠償を認めるべきであるということを明らかにしました。

2 現実の和解仲介申立事例では個別賠償がなされていないこと
(1)事案の概要
本件和解仲介申立事案は、郡山市に居住する母親及び娘(当時12歳)が、①平成23年6月下旬頃、娘が大量の鼻血を出して体調不良になることが続いたこと、及び、②自宅の線量が高かったこと、を理由として、平成23年7月から8月にかけて東京都内及び神奈川県川崎市へ自主的に避難したという事案です。現在、父親は郡山に残って生活し、母親は神奈川県川崎市内で、娘は東京都内で、と自主的避難に伴うやむを得ない事情から別々の場所で生活を送ることを余儀なくされています。
申立人(母親)は、平成24年3月末までの損害として、551万2782円(移動費用や生活費増加分等の実費として107万5686円、精神的損害として443万7096円)を請求しました。申立人(娘)は、平成24年3月末までの損害として、443万7096円(精神的損害のみ)を請求しました。
しかし、仲介委員の提示した和解案は、申立人(母親)の平成23年12月末日までの精神的損害、生活費増加費用及び移動費用として8万円を認め、申立人(娘)の平成23年12月末までの精神的損害、生活費増加費用及び移動費用として60万円を認める、というものでした。

(2)中間指針追補に基づく個別賠償がなされていないこと
東京電力は、自主的避難等に係る損害に対する賠償として、子どもが実際に避難した場合には、子どもには中間指針追補で示された40万円に20万円を追加した合計60万円を、妊婦及び子ども以外は8万円を支払うとしています。
したがって、上記和解案は、東京電力が自主的避難者から直接請求を受けた場合に支払っているものと全く同一の金額となっています。
申立人(母親)は、東京都内へ自主的避難して以来、東京都内に住む申立人(娘)の生活費も支払うという三重生活を送り、経済的にも相当の負担を強いられています。実際、平成23年12月末日に限ってみても、申立人(母親)は、自主的避難に伴い、少なくとも59万4124円の支出を余儀なくされています。  それにもかかわらず、和解案では、東京電力が直接請求で支払うことを認めたのと同一の金額しか認めておらず、申立人(母親)の個別的事情を一切考慮していないと言わざるを得ません。
さらに、和解案は、申立人(母親)の損害として8万円のみを認めており、申立人(母親)がこれまで被った多大な精神的損害を正当に評価していません。
これらは、原子力損害賠償紛争解決センターでの個別賠償を認めるという中間指針追補及びこれを取りまとめた原子力損害賠償紛争審査会の意図に明らかに反しています。

(3)和解案の内容について十分な説明を受けていないこと
申立人らは、5月16日の口頭審理期日において、仲介委員に対し、①平成24年3月末日までの損害の賠償を求めたにもかかわらず平成23年12月末日までの和解案しか示さない理由、②申立人(母親)が負担した実費が損害としていくら認められるかの内訳を示すよう求めました。
しかし、仲介委員は、口頭審理期日において、損害を平成23年12月末日までに限る理由について明確な理由を述べず、また、申立人(母親)の実費のうち認められる金額及び内訳を示すことを明確に拒否しました。
そこで、申立人らは、仲介委員に対し、平成24年5月18日付で「和解案に対する質問書」を提出し、和解案の内容について、5月24日までに説明をするよう求めましたが、現時点において、仲介委員から何らの回答もありません。

(4)まとめ
原子力損害賠償紛争解決センターは、「原子力損害の賠償に関する紛争の迅速かつ適正な解決を図るため」(原子力損害賠償紛争解決センター和解仲介業務規程第1条)に設置された機関です。
本件申立事例では、中間指針追補に基づいて適切に個別賠償がされているとみることができません。仮に、原子力損害賠償紛争解決センターにおいて、適切な個別賠償がなされているというならば、申立人に納得のいく説明をすることが原子力損害の賠償に関する紛争の適正な解決に資することになります。
したがいまして、私たちは、(1)中間指針追補の趣旨に従って、「個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害」については、東京電力が賠償をするよう適切な和解の仲介を行うこと及び、(2)和解仲介手続において、申立人の請求額の一部ないし全部を減額した和解案を提示する場合には、仲介委員は、和解案に含まない費目の内訳及びこれを含まない理由を示すなど、申立人に適切な説明を行うことを求めます。

以上
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