福島県からの自主避難における賠償など法的支援

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自主避難者支援 恒久的な対策立法を急げ
2012年4月14日

SAFLAN共同代表である河﨑健一郎の論説が、4月6日の朝日新聞朝刊〈私の視点〉に「自主避難者支援 恒久的な対策立法を急げ」として掲載されました。ぜひご覧下さい(朝日新聞デジタルに登録されている方は、こちらから閲覧可能です)。

河﨑が投稿した元原稿(掲載版とは若干異なります)を下記に再掲させていただきます。

 原発事故による放射能汚染は,風に乗って運ばれた放射性物質の拡散により,まだら状に発生しました。しかし避難の過程では,政府によって一律の線引きがなされ,引かれた線の外側にいる住民の方々は,苦しい判断を強いられることになりました。私は弁護士として,こうしたいわゆる「自主避難者(区域外避難者)」の方々への支援活動に取り組んできました。

 放射線被ばくは感覚的に捉えるのが難しい。放射線は目に見えない,触れない,味がしない。線量計の計測結果や,内部被ばく量の検査結果をみれば,福島県内外の決して狭くない地域において,一定の低線量被ばくが生じていることは事実です。しかしその健康への影響をどう考えるかは立場がわかれます。学者のいうことはまちまちで,さして問題がないようにも,何らかのリスクがあるようにも思えます。

 こうした白とも黒とも言い切れない,グレーゾーンが残る問題については,市民の自己選択が尊重されるべきではないでしょうか。私は一定の線量以上の放射線被ばくが予想される地域の住民には,「避難する権利」が認められるべきであると考えます。これは一人ひとりの市民が十分な情報に基づいて自己決定を行い,その選択の実効性が国家によって保障されることを意味します。
 
 一方で,「とどまる選択」もあるでしょう。避難に伴うリスクが放射線被ばくのリスクより高いと考える立場もあるでしょうし,その人の年齢,性別,家族構成,社会関係,健康リスクに対する考え方などによって,判断がわかれるのは自然です。大切なのは,お互いの立場,選択を理解し合うことではないでしょうか。

 政府は原発事故の収束を宣言し,政府指示の避難区域の一部は解除されました。避難区域の解除に伴って帰還するか否かを迫られる人々も,自主避難者と同じ問題に直面しはじめています。

 一方で,自主避難者の生活基盤を支えてきた災害救助法の適用期限が迫ってきています。厚生労働省の通達によれば,応急仮設住宅としての民間賃貸住宅の借り上げは,震災から2年が期限と定められています。このまま恒久的な対策立法がないままに期限切れを迎えれば,数万人に及ぶ自主避難者が生活の基盤を失うことになりかねません。

 私が参加する「福島の子供たちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」では,連携する市民団体と共同で,放射線被ばくの被害者に対する恒久的な対策立法の制定を求める提言を行い,立法府への働きかけを行ってきました。与野党それぞれが立法化の検討を始めており,時期的に先行した野党案と,自己決定権の擁護に踏み込んだ与党案とが出揃ったところです。与野党での調整が進み,今国会での成立に持ち込めるのか,まさに正念場を迎えています。

 低線量被ばくと避難の問題はまだ始まったばかりです。震災から一年が経過し,社会の関心が原発事故から急速に離れつつある中で,避難者たちは孤立を深めつつあります。低線量被ばくと避難の問題について,どれだけ多くの国民が理解と関心を寄せ続けられるか,いま問われているのではないでしょうか。

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