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【声明追補】区域外避難者(自主的避難者)の全損害項目への賠償を求める意見書
2011年12月1日

原子力損害賠償紛争審査会 能見善久会長、委員各位

区域外避難者(自主的避難者)の全損害項目への賠償を求める意見書   

福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク

共同代表 弁護士 梓澤 和幸

同    弁護士 河﨑健一郎

運営委員 弁護士 福田 健治

【要約】

・区域外避難について低額の一律額のみを賠償することには、何ら合理的理由がなく、また被害実態からもかけ離れている。

・区域外避難者に生じた被害と滞在者に生じた被害は内容が異なり、賠償額が同一でないとしても公平性の問題は生じない。

・区域外避難についても、避難指示等に基づく避難に係る損害項目と同一の賠償が認められるべきである。

・区域外避難についても、本件事故と相当因果関係のある損害は全て賠償されるべきであり、追補イメージには、賠償が具体的事案の解決を拘束するものでなく、具体的事案にむけて「開かれている」旨が明記されるべきである。

1 「中間指針追補(自主的避難等に係る損害関係)のイメージ(案)」の概要

2011年11月25日、第17回原子力損害賠償紛争審査会が開催され、政府による避難指示等がなされていない区域からの避難(以下「区域外避難(自主的避難)」)によって生じた損害の賠償範囲について、事務局から、「中間指針追補(自主的避難等に係る損害関係)のイメージ(案)」(以下「追補イメージ」)と題する資料が配付され、議論が行われた。

追補イメージにおいては、区域外避難にかかる賠償項目として、

① 自主的避難によって生じた生活費の増加費用

② 自主的避難により生じた精神的苦痛

③ 避難及び帰宅に要した移動費用

の3点が挙げられた。

また、これらについて、自主的避難等対象区域内の住居に滞在を続けた場合の精神的苦痛及び生活費の増加費用の合計額と同額について、子ども及び妊婦とその他の対象者に分け、それぞれ一律額を賠償する方向が示された。

2 原子力事業者の賠償責任

原子力事業者の賠償責任を規定する原賠法は、損害賠償の範囲につき一般の不法行為に基づく損害賠償請求権と特別に異なる規定を置いていない。

したがって、原子力事業者の賠償責任を一般の不法行為責任と異なって解する理由はない。

  中間指針においても「原賠法により原子力事業者が負うべき責任の範囲は、原子炉の運転等により及ぼした『原子力損害』であるが(同法3条)、その損害の範囲につき、一般の不法行為に基づく損害賠償請求権における損害の範囲と特別に異なって解する理由はない。したがって、指針策定に当たっても、本件事故と相当因果関係のある損害、すなわち社会通念上当該事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のものであれば、原子力損害に含まれる」ことが確認されている。

すなわち、本件事故と相当因果関係のある損害についてはすべて賠償されることが大原則である。

3 追補イメージの賠償責任への評価

追補イメージが、「住民が放射線被曝への相当程度の恐怖や不安を抱いたことには相当の理由があり、また、それに基づき自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面がある」とし、自主的避難者に対する原子力事業者の賠償責任を確認していることは一定の評価をすべきである。

しかし、追補イメージが賠償額について、「賠償すべき損害額については、自主的避難が、避難指示等により避難等を余儀なくされた場合とは異なるため、これに係る損害について避難指示等の場合と同じ扱いとすることは必ずしも公平かつ合理的ではない」(追補イメージ4頁)「自主的避難者と滞在者の損害額については、基本的に同額とすることが妥当と判断した」(追補イメージ5頁)とする点には大いに疑問がある。

4 原子力事業者の自主的避難者への損害賠償責任

原賠法における原子力損害賠償制度は、一般の不法行為の場合と同様、本件事故によって生じた損害を?補することで、被害者を救済することを目的とするものであって、被害者間での損害の分担を調整することを目的とするものではない。

したがって自主的避難者に対する損害については、避難指示等による避難者や避難しなかった者との対比において損害を論じることは妥当でなく、原則に則り、合理性ある損害についてはすべて賠償がなされるべきである。

本件事故により、警戒区域外においても継続的に高い線量の放射線が測定されている。そのような中で警戒区域外の者でも自主的避難を選択することには合理性があり、避難によって生じた損害は本件事故と相当因果関係ある損害である。

以上を前提とすれば、区域外避難者に生じた相当因果関係にあるすべての損害に対する賠償が認められるべきである。

なお、追補イメージは、自主的避難者と滞在者の損害は「いずれも自主的避難等対象区域内の住居に滞在することに伴う放射線被曝への恐怖や不安に起因して発生したものであること」等の理由から、自主的避難者と滞在者への賠償額を一律同額とすべきとする。

しかし、区域外避難者には避難費用や営業損害・就労不能等による損害が実際に発生しているのであるから、相当因果関係のあるこれらの項目が賠償項目に含まれるのは必然的な帰結であり、実際に生じた損害を賠償した結果、区域外避難者が滞在者より多額の賠償金を受けることになったとしても、なんら問題がない。

公平かつ合理的な賠償とは、実際に生じた損害額(慰謝料や逸失利益を含む)の賠償であって、損害が異なる被害者間に同額の賠償を行うことは、公平でもなく合理的でもない。

もちろん避難を選択せずに滞在の道を選ぶ人々に生ずる健康上の損害、健康被害を回避するために必要とされる措置をとることによって生ずる損害、深刻な精神的苦悩によって生ずる損害などにつき精査の上、相当の損害が認められるべきことは論を待たない。

なお、追補イメージは、「自主的避難者と滞在者を区別し、個別に自主的避難の有無及び期間等を認定することは実際上極めて困難であ」るという。

しかし、すでに中間指針においても、緊急時避難準備区域からの自主避難について賠償を認めているが、かかる賠償において実際上の困難が生じているとの事実は東京電力からも原子力損害賠償紛争センターからも示されていない。

早期の救済が目的であれば、まず一律額の賠償を行った上で、同額を超える賠償を希望する者について個別立証に基づく全損害の賠償を認めることが合理的である。

5 重要な問題

審査会の結論は、今後東京電力との直接交渉や原子力損害賠償センターにおける和解の仲介、民事訴訟等の局面において一種の公権的見解として引用参照されることも少なくないと考えられる。

その際に、損害の発生、継続、多寡の評価は、複雑にして具体的な事実の認定と事実に対する規範的評価とを総合する容易ならざる思考と考究を要する問題を招来する。なぜならこれは前代未聞の経験であるからである。

このことを考えると、審査会の提起する指針が具体的な事件における主張と立証、認定を拘束する「閉じられた見解」であってはならず、あくまで具体的な事案を前提としない抽象的一般的考察に留められるべきであり、問題は「具体的事案にむけて開かれている」旨を明らかにすべきである。

委員各位におかれては、この場における議論が一人ひとりの人生、一人ひとりの子どもの命と健康と未来を左右しかねない問題であることを念頭におかれて検討にあたられるよう要望したい。

6 結語

いま、自主的に避難する者も、その地域にとどまる者も、未曾有の原発事故の影響を受けながら、苦渋の選択を迫られ続けている。

自主的避難者の数について、原子力賠償紛争審査会事務局の50,327人(9月22日時点)との推計を前提としても、大変な社会問題となっていることは明らかであるが、実数はこれをはるかに上回る状況にある。

そうした中、自主的避難への賠償額について一定の指針を出すことは、継続的な放射線量を浴び続け、そのことによる妊婦、乳幼児、子どもたちの健康を特に憂慮する人たちの今後の自己決定に極めて多大な影響を与えることになり、その一生を左右する問題であることを強調したい。

追補イメージの示す自主的避難者への賠償の損害項目および損害額の内容は、自主的避難者への損害の填補と未来へ向けた生活の再建を支えるのに十分なものとは言い難い。

私たちは、区域外避難に関する指針においては、

① 区域外避難に係る損害項目は、原則として避難指示等に基づく避難に係る損害項目と同一であること

② 指針が定める一律額を超える損害が発生している場合には、個別の損害項目に基づく賠償が認められること

を明記するよう求め、ここに申し入れるものである。

以 上

 ※本意見書は、当団体の11月28日付「区域外避難(自主的避難)について全ての損害項目への賠償を求める緊急声明」の内容を、補充・詳細化したものです。

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