福島県からの自主避難における賠償など法的支援

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8月22日 子ども・被災者支援法の早期具体化を求める裁判を提起しました
2013年8月22日

本日,子ども・被災者支援法の早期具体化を求める裁判を,東京地方裁判所にて提起しました。

【解説】

子ども・被災者支援法をめぐる裁判は何を訴えているのか(SAFLAN共同代表 弁護士 河﨑健一郎

【訴状】

                             訴    状

 平成25年8月22日

東京地方裁判所民事部 御中

原告ら訴訟代理人

                弁護士  福田健治

                同    石垣正純

                同    江口智子

                同    大城 聡

                同    尾谷恒治

                同    河﨑健一郎

                同    菅波香織

                同    仲里歌織

                同    吉峯真毅

        当事者の表示

     原告ら  別紙原告目録のとおり

       原告ら訴訟代理人  別紙訴訟代理人目録のとおり

       〒100-8977

       東京都千代田区霞ヶ関1丁目1番1号

       被告  国

       代表者法務大臣  谷垣禎一

原発事故子ども・被災者支援法基本方針不策定違法確認等請求事件

 

 

 

目 次

第1 請求の趣旨… 6

第2 請求の原因… 6

1 本訴訟の概要… 6

2 当事者等… 8

(1)原告ら… 8

(2)主務官庁:復興庁等… 9

3 法制定の経緯… 9

(1)政府による避難区域等の設定… 9

(2)避難指示区域外における政府の施策が特に不十分であったこと… 12

(3)募る生活と健康への不安… 13

(4)原発事故・子ども被災者支援法の制定… 14

4 法の概要… 15

(1)目的・基本理念(法1条、法2条等)… 15

(2)基本方針の策定(法5条)… 15

(3)被災者生活支援等施策(法8条ないし法11条)… 15

(4)汚染の状況の調査と除染(法6条、法7条)… 19

(5)意見の反映・その他… 19

5 原告らが法の定める「被災者」に該当すること… 19

(1)法の定め… 20

(2)「政府による避難に係る指示が行われるべき基準」… 20

(3)「一定の基準」とは「年間追加被曝線量が1ミリシーベルトに達するおそれがあること」であること… 20

(4)原告らが法1条の「被災者」に該当すること… 26

6 法の施行後1年以上を越えて基本方針を策定しないことが違法であること〔請求の趣旨第1項〕… 27

(1)政府による基本方針策定の著しい遅延… 27

(2)法の附則は1年以内の基本方針策定を前提としていること… 27

(3)他の法律においても基本方針はほぼ1年以内に策定されていること    28

(4)法に基づく基本方針不策定に何ら合理的な理由がないこと… 30

(5)まとめ… 31

7 原告らが法に基づく生活支援等施策の利益を受けることができる地位にあること〔請求の趣旨第2項〕… 31

(1)原告●… 31

(2)原告●… 33

(3)原告●… 36

(4)原告●… 38

(5)原告●・原告●… 39

(6)原告●… 42

(7)原告●… 46

(8)原告●… 49

(9)原告●・原告●… 50

(10)原告●… 54

(11)原告●… 57

(12)原告●・原告●… 60

(13)原告●… 62

(14)原告●… 64

(15)原告●… 65

(16)原告●… 68

(17)原告らが確認の利益を有すること… 71

8 国家賠償請求が認められること〔請求の趣旨第3項〕… 72

9 結語… 72


第1 請求の趣旨

1 被告が、東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律5条1項の被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針を定めないことが違法であることを確認する。

2 原告らが、別紙請求の趣旨一覧の各施策欄記載の東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律に基づき被告が講じる各施策の利益を受けることができる地位にあることを確認する。

3 被告は、原告らに対し、それぞれ1円を支払え。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

 

第2 請求の原因

1 本訴訟の概要

本訴訟は、東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(以下「法」という。)の速やかな実施を求めて、国に対し、法5条に基づく被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を策定しないことが違法であることの確認を求めると同時に、現に支援を必要としている原告らが同法に基づく被災者生活支援等施策による利益を受けることができる地位にあることの確認と、現に施策が講じられていないことによる損害に対する賠償を求めるものである。

法は、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)が引き起こした広範な放射性物質の拡散という状況下において政府による被曝を避ける権利の実現のための行政施策が不十分な中で、生活や健康に不安を抱える被災者を支援するために、超党派の議員立法として提案され、国会議員の全会一致により、平成24年6月21日に成立し、同月27日に公布・施行された。

法は、国が「これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っている」ことに基づき(法3条)、被曝を避ける権利を「被災者一人一人」に認め、居住・移動・帰還を自らの意志で「選択」できるよう適切に支援することを理念としている(2条2項)。また、健康被害の未然防止の観点から健康管理の実施を定めている (同条5項)。

これは、「放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていない」との認識の下(法1条)、いわゆる低線量被曝による人体への影響をめぐる議論が被曝を避ける権利の実現・健康管理の実施にあたって障害となってはならないことを決定し、法の下に宣言したものだといえる。

しかし、法の成立から1年2ヶ月が経過した現在でも、政府は、同の適用対象及び内容を具体化するための基本方針を策定していない。

社会が複雑多様化する中で行政の役割の肥大化がいわれて久しいが、被災者に対する支援策の具体化を政府による基本方針の策定に委ねるのも、この流れの一つだと言えよう。しかし、これは、行政が立法府の意見を尊重し、誠実にその立法意思の実現に取り組むことへの信頼が前提となっているのであって、その信頼に背くことは許されない。当然のことながら基本方針の策定時期や内容について、政府に自由裁量はないのである。従来、政府はこのことを自覚していたことから、法のように、議員立法で政府による基本方針の策定が義務付けられていながら、その策定に1年以上要したものはほとんどない。

その意味で、法による基本方針の策定をめぐる政府の不作為は、憲法の基本原則である三権分立のあり方を改めて問うものだといえる。法が想定しない事態が発生した場合において、政府に警鐘を鳴らし、その役割の自覚を促せるのは、司法をおいてほかにない。

そこで、原告らは、基本方針不策定の違法を確認し、自らが同法に基づく被災者生活支援等施策による利益を受けることができる地位にあることの確認を求めると共に、本訴訟が原告ら各個人のみの救済を求めることに主眼を置いているものではなく、原発事故で生活や健康に不安を抱える被災者が、法に基づく施策実施の遅れにより、広く損害を受けていることを代弁するものであることを明らかにするために、この損害の一部である1円の賠償を請求する本訴訟を提起する。

 

2 当事者等

(1)原告ら

原告らは、本件事故発生の当時、福島県伊達市、福島市、郡山市、いわき市、宮城県丸森町、栃木県那須塩原市に居住していた者である。いずれの地域も、本件事故による放射性物質の広範な拡散によって汚染され、一部の原告らは避難を余儀なくされ、残る原告らは現在でも元の居住地において被曝量を低減する努力をしながら居住している。

後述するとおり、原告らが置かれている状況は、地域や世帯構成、避難の動機等によって極めて多様である。しかし、従来の政府の施策又は損害賠償の枠組みでは救済されないことおよび現にいま支援を必要とする状況にある点では共通している。

なお、後記5で詳述するとおり、原告らは、いずれも法1条が定める「被災者」の定義に該当する。

(2)主務官庁:復興庁等

法は、主務官庁を明示的に定めていないものの、法5条1項に基づき基本方針は、東日本大震災からの復興に関する行政事務の円滑かつ迅速な遂行を任務とする復興庁が、そのとりまとめに当たるものとされている(復興庁設置法3条)。

3 法制定の経緯

(1)政府による避難区域等の設定

ア 政府は、平成23年3月の本件事故直後、原子力災害対策特別措置法(以下「原災法」という。)に基づく避難指示を発出し、3月12日には福島第一原子力発電所から20km範囲内の住民について避難を、同月16日には20km以上30km圏内の住民には屋内退避を行うよう、地方自治体に指示した。

イ その後政府は、同年4月21日は、これまでの避難区域を「警戒区域」に、同月22日には、30km圏内の一部を「緊急時避難準備区域」に指定した。

また、政府は同日、「計画的避難区域」(政府が各地方公共団体の長に対して計画的な避難を指示した区域)を追加した。

この計画的避難区域は、「事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれ」を基準とするものであり、福島第一原子力発電所からの距離で設定された警戒区域や緊急時避難準備区域とは異なり、放射線量を基準とするものである(平成23年4月11日付け政府発表「『計画的避難区域』と『緊急時避難準備区域』の設定について」)。

さらに、同年6月30日には、政府は、「特定避難勧奨地点」(政府が、住居単位で設定し、その住民に対して注意喚起、避難の支援・促進を行う地点)を設定している。

以下では、以上の各区域等のうち、避難区域と計画的避難区域を併せて「避難指示区域」とし、その他緊急時避難準備区域・特定避難勧奨地点も併せて総称するときは「避難指示区域等」とする。避難指示区域等の設定状況は、「図1 再編前の避難指示区域等」のとおりである。

ウ その後、政府は、平成24年4月から順次、避難指示等区域を「避難指示解除準備区域」(年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された地域)、「居住制限区域」(年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、引き続き避難を継続することが求められる地域)、及び「帰還困難区域」(福島第一原発事故から5年間が経過しても、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域)の3つに再編している(「図2 再編後の避難指示等区域」参照)。

図1 再編前の避難指示等区域

(略)

図2 再編後の避難指示等区域

(略)

 

(2)避難指示区域外における政府の施策が特に不十分であったこと

ア 前述のとおり、避難指示区域は、年間積算線量20ミリシーベルトを基準として設定されているところ、福島県であっても同基準を下回る地域に居住する者や宮城県、栃木県等に居住する者は、政府による支援の対象外とされている。

その結果、避難指示区域外の住民は、避難を行った場合災害救助法に基づく民間賃貸住宅借り上げ制度により住宅支援を受けることができたほかは、被曝の低減に資する施策は、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法に基づく除染や食品衛生法等に基づく放射性物質の基準値の策定による内部被曝の低減措置くらいであった。

また、福島県による県民健康管理調査でも、「健康診査」を受けられる対象が避難指示区域等の全部又は一部を含む市町村(いわきを除く)の住民に原則として限定されており、上記市町村外に居住する住民は十分な健康管理を受けられていない。さらに、本件事故時に福島県外に居住した住民に対しては、被曝に起因する疾病に関する健康診断はほとんど実施されていない。

イ そればかりか、政府が定めた避難指示区域等は、事実上損害賠償とも連動している。

すなわち、原子力損害賠償紛争審査会が策定した一連の指針は、避難指示区域等などを「対象区域」と定義し、月10万円の慰謝料をはじめとする賠償基準を示している一方、避難指示区域外の住民や区域外からの避難者に対する賠償基準は、極めて少額かつ限定的である。

このように、避難指示区域等外の住民は、被曝を避ける権利が認められていない現状にあったといえる。

(3)募る生活と健康への不安

このような中、原告らのように、避難指示区域外の住民は、居住・移動・帰還をめぐって、苦しい生活状況に追い込まれている。

災害救助法による民間賃貸借り上げ住宅制度による支援は、原則として2年間とされており、現在まで延長されてはいるものの、この先の継続は極めて不確かである。また、同制度の避難区域外の住民への新規適用は、平成24年12月で打ち切られてしまった。

また、一家の稼ぎ手である父親を被災地に残して母親と子どもが避難する、いわゆる母子避難のケースも目立つが、不安定な生活状態に家族の構成員が耐えきれず、避難元への帰還を余儀なくされるケースが増えてきている。

避難者たちの帰還は、新たな問題も生んでいる。生活の基盤を確保することに伴う様々な困難はもちろんであるが、それに加えて、帰還した者への周囲の冷たい視線に苦しんでいるという報告も多い。被曝をめぐる対応の過程では、「避難」を選ぶ者と被災地に留まる者の間に、深刻な葛藤が生じてきた。そうした住民の心理的な分断が、帰還をめぐる局面でも暗い影を落としているのである。

また、放射線被曝の健康影響への懸念は、福島県の内外を問わず大きいが、国の施策は、福島県が実施する県民健康管理調査への資金提供にほぼ限られ、国が主導して汚染地域全体をカバーする健康診断体制作りの取組は何らなされていない。

(4)原発事故・子ども被災者支援法の制定

かかる現状に鑑み、政府が設定した避難指示区域等の内外を問わず、被災者を包括的かつ恒久的に支援する仕組みの必要性が認識されるようになり、原発事故子ども・被災者支援法が制定された。

4 法の概要

(1)目的・基本理念(法1条、法2条等)

法は、既述のとおり、「放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に解明されていない」との認識の下、これによって現に生じている健康上の不安の解消及び安定した生活の実現を図ることを目的としている(法1条)。これは、いわゆる未然防止原則を採用するものであり、同法は、その基本理念でも、特に子ども及び妊婦に対する特別な配慮を求めつつ、被災者に対する未然防止原則に立った施策の必要性が繰り返し謳っている(法2条5項)。

同法は、未然防止原則の観点から、基本理念において、居住・移動・帰還を自らの意志によって選択できるよう適切な支援を行うと定め、被曝を避ける権利の実現を図っている(法2条2項)。

(2)基本方針の策定(法5条)

政府は、上記基本理念に則り、基本方針を策定する責務を負う。

この基本方針では、「支援対象地域」に関する事項及び「被災者生活支援等施策」に関する基本的な事項等を定めるものとされており(法5条1項、2項)、基本方針の策定により支援の対象と内容が具体化されることが予定されている。

基本方針の策定にあたっては、地域の住民、当該地域から避難している者等の「意見を反映させるために必要な措置」が講じられることとなっている(同条3項)。

(3)被災者生活支援等施策(法8条ないし法11条)

法は、避難指示区域外における居住・避難・帰還の選択を認めるとともに、避難指示区域からの避難者が帰還する際にはこれに準じた支援をすること等を定める。具体的には、以下のとおりである。

ア 支援対象地域における居住(法8条)

国は、支援対象地域に居住する被災者を対象として、

①医療の確保に関する施策

②子どもの就学等の援助に関する施策(学校における学習を中断した子どもに対する補修の実施及び学校における屋外での運動が困難となった子どもに対する屋外での運動の機会の提供を含む)

③家庭、学校等における食の安全及び安心の確保に関する施策(学校給食の共同調理場等における放射性物質の検査のための機器の設置を含む)

④放射線量の低減及び生活上の負担の軽減のための地域における取組の支援に関する施策(子どもの保護者等による放射性物質により汚染された土壌等の除染等の措置、学校給食等についての放射性物質の検査その他の取り組み及び最新の科学的知見に基づき専門的な助言、情報の提供等を行うことができる者の派遣を含む。)

⑤自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策(いわゆる保養)

⑥家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援に関する施策

⑦その他必要な施策

を講じることが定められている。

イ 支援対象地域からの避難(法9条)

国は、支援対象地域から移動(避難)した被災者を対象として、

①支援対象地域からの移動の支援に関する施策

②移動先における住宅の確保に関する施策

③子どもの移動先における学習等の支援に関する施策

④移動先における就業の支援に関する施策

⑤移動先の地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることができるようにするための施策

⑥支援対象地域の地方公共団体との関係の維持に関する施           策

⑦家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援に関する施策

⑧その他の必要な施策

を講じることが定められている。

ウ 支援対象地域への帰還(法10条)

国は、支援対象地域から移動(避難)した被災者で、当該移動前に居住していた地域に再び居住するもの及びこれに準ずる被災者を対象として、

①当該地域への移動の支援に関する施策

②当該地域における住宅の確保に関する施策

③当該地域における就業の支援に関する施策

④当該地域の地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることができるようにするための施策

⑤家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援に関する施策

⑥その他の必要な施策

を講じることが定められている。

エ 避難指示区域からの避難者(法11条)

(ア)国は、政府による避難に係る指示の対象となっている区域から避難している被災者を対象として、

①損害賠償の支払いの促進等資金の確保に関する施策(当該区域における土地等の取扱いに関するものを含む。)

②家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援

③その他の必要な施策

を講じることが定められている。

(イ)また、国は、政府による避難に係る指示の対象となっている区域から避難している被災者で当該避難前に居住していた地域に再び居住するもの及びこれに準ずる被災者について、上記ウ記載の施策に準じた施策を講じることが定められている。

(3)健康管理(法2条5項、法13条)

ア 国は、被災者を対象として、

①定期的な健康診断の実施

②その他健康への影響に関する調査

について必要な施策を講じることが定められている(同条2項)。

イ 国は、上記ア①の健康診断について、「少なくとも、子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む)及びこれに準ずる者」を対象とする場合は、「生涯にわたって実施」されるよう必要な措置を講じるものとしている(同条2項)。

ウ さらに、国は、

①被災者のうち子ども及び妊婦を対象として、「医療(東京電力原子力事故に係る放射線による被曝に起因しない負傷又は疾病に係る医療を除いたものをいう。)を受けたときに負担すべき費用」について、その負担を「減免」するために必要な施策

②その他被災者を対象として、「医療の提供に係る必要な施策」

を講ずるものとしている(同条3項)

(4)汚染の状況の調査と除染(法6条、法7条)

ア 国は、汚染の状況の調査を放射性物質の種類ごとにきめ細かく、かつ、継続的に実施等するものとされている(法6条1項)。

イ また、国は、上記ア記載の調査結果に基づいて、土壌等の除染の措置を継続的かつ迅速に実施するため必要な措置を講じるものとされている(法7条1項)。

ウ 特に、国は、子どもの住居、学校、保育所その他の子供が通常所在する場所(通学路その他の子どもが通常移動する経路を含む。)及び妊婦の住居その他の妊婦が通常所在する場所における土壌等の除染等の措置について、「特に迅速に実施」するため、必要な配慮をするものと定められている(同条2項)。

(5)意見の反映・その他

法は、以上の他、上記施策の実施を支えるものとして、基本方針の策定並びにその後の被曝を避ける権利の実現及び健康管理等の実施にあたって、「被災者の意見を反映」するための必要な措置を講じることを定めることや(法5条3項、14条)、措置についての情報提供のための体制整備(法12条)等を定めている。

 

5 原告らが法の定める「被災者」に該当すること

原告らは、以下に詳述するとおり、いずれも、法が定める「被災者」(法8条1項、1条)に該当する。

(1)法の定め

法は、前述のとおり、「その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域」を、「支援対象地域」と定め、同地域に居住し、又は居住していた者及び政府による避難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずる者を「被災者」と定め、支援の対象としている(法8条1項、1条)。

(2)「政府による避難に係る指示が行われるべき基準」

現在、政府が避難に係る指示が行われるべき基準(以下「避難指示基準」という。)として用いているものには2つがある。

既述のとおり、平成23年4月22日に設定された計画的避難区域においては、「事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある地域」が基準とされた(平成23年4月11日付け政府発表「『計画的避難区域』と『緊急時避難準備区域』の設定について」)。

また、平成24年度から始まった避難区域の見直しにおいては、引き続き避難の継続を求める居住制限区域について、「現時点からの年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあ」るとの基準が用いられた(平成23年12月26日政府原子力災害対策本部「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」)。

したがって、避難指示基準とは、具体的には、年間積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある地域をいう。

(3)「一定の基準」とは「年間追加被曝線量が1ミリシーベルトに達するおそれがあること」であること

ア 「一定の基準」は「被曝を避ける権利」を実定法化する法の趣旨から導き出されるべきであること

法は、支援対象地域の基準となる避難指示基準を下回る「一定の基準」について、その内容を規定せず、条文上は、これを、政府が定める基本方針に委ねている(法5条2項2号)。

しかし、これを政府に対してフリーハンドを与えたものと解釈されるべきではない。上述のとおり、法は、本件事故による広範な放射性物質の拡散という状況下において、その放射線の健康影響の可能性に直面した被災者に対して、被曝を避ける権利を実定法上保障する目的で制定されたものである。

したがって、「一定の基準」は、本件事故の被害者に対し、政府の責任において、被曝を避ける権利を最低限保障すべき範囲を画する概念として機能している。被曝を避ける権利が最低限保障されるべき線量は、まずもって①本件事故以前からの放射線の防護に関する基準を前提として決定されるべきであり、また②原子力事故後の放射線防護に関する国際基準や③本件事故後に政府が定めた放射線防護に関する基準も参照されるべきである。

以下に詳述するとおり、本件事故の被害者は、本件事故前から年間1ミリシーベルトを越える被曝を避ける権利が保障されてきており、事故後においても、政府は個人の追加被曝線量が年間1ミリシーベルトを下回るよう施策を講じてきたのであるから、支援対象地域の基準となる「一定の基準」についても、年間1ミリシーベルトを基準とすべきことは明らかである。

イ 本件事故以前における放射線に防護に関する基準

本件事故以前から、一般人の放射線被曝については、国際的にも、国内法令上も、一定の定めが置かれており、一般人が一定以上の被曝を強いられないことが制度的に担保されていた。本件事故が放射性物質を拡散したとしても、本件事故の被害者が、事故前より多くの線量の被曝を甘受すべき合理的理由は存在しない。したがって、本件事故以前から定められている放射線防護に関する国際的基準や国内法令上の基準は、本件事故の被害者が有する被曝を避ける権利の最低限を画する線量基準としての意味を有する。

この観点から、本件事故以前における放射線の防護に関する基準を見ると、まず政府が参照する、国際的な学術組織である国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告は、公衆の被曝限度を年間1ミリシーベルトと定めている(ICRP・2007年勧告)。

そして、これを受けた日本の国内法令も、公衆の被曝限度を1ミリシーベルト未満とすることを目的とする一連の規制を行っている。例えば、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する法律および同施行規則に基づき定められた「原子炉等規制法及び実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則に基づく線量限度等を定める告示」(平成13年3月21日経済産業省告示第187号)は、原子炉の周辺監視区域外の線量限度を年間1ミリシーベルトと定め、また放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律および同施行規則に基づく「設計認証等に関する技術上の基準に係る細目を定める告示」(平成17年7月4日文部科学省告示第94号)は、放射線同位元素を装備している機器について外部被曝線量の限度を年間1ミリシーベルトと定めている。

このように、本件事故以前から、一般人の放射線被曝は年間1ミリシーベルトを限度とすることが国際基準とされており、これに基づき、国内法令においても、一般人の被曝を年間1ミリシーベルト未満とすることを目的とする一連の規制がなされてきた。したがって、本件事故の被害者についても、本件事故後にあっても、年間1ミリシーベルトを超える被曝を避ける権利を有しているものといえる。

ウ 原子力発電所事故後の放射線防護に関する国際基準

本件事故の発生当時、日本においては、本件事故のように、原子力発電所に事故が生じ、広範囲に放射性物質が拡散し、環境中に大量の放射性物質が残存する状況について、いかなる放射線からの防護措置を採るべきかを定めた法令は存在しなかった。このため、政府は、一貫して、国際的な学術組織である国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて放射線防護政策を決定・実施してきた。例えば、政府が避難指示基準として用いている20ミリシーベルトは、ICRPが、2007年勧告において、「緊急時被曝状況」(原子力事故または放射線緊急事態の状況下において、望ましくない影響を回避もしくは低減するために緊急活動を必要とする状況)において適用される参考レベルのバンド20~100ミリシーベルト(急性または年間)の下限値を採ったものであると説明されている(前記「『計画的避難区域』と『緊急時避難準備区域』の設定について」、平成23年7月19日付け原子力安全委員会「今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」)。

ICRPは、2008年、原子力事故によって生じた長期汚染地域に居住する人々の防護について、「原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」(Publication 111)を発表している。同文書は、原子力事故後の現存被曝状況(上記緊急時被曝後の長期被曝状況)について、参考レベルを1~20ミリシーベルトの幅の下方部分から選択することを勧告し、また過去の長期の事故後の状況において用いられてきた代表的な値が年間1ミリシーベルトであったと指摘している。

すなわち、原子力発電所事故後の放射線防護に関する国際基準は、年間1ミリシーベルトを基準として放射線防護策を実施することを強く示唆している。

エ 本件事故後に政府が定めた放射線防護に関する基準

政府は、本件事故後、上記ウ記載のICRPの勧告に基づき、被曝を年間1ミリシーベルト未満とすることを目標として、様々な施策を実施してきた。これら施策は、本件事故の被害者が、年間1ミリシーベルトを超える被曝を避ける権利を有することを前提として採られてきたものであり、「一定基準」の設定にあたっても、被曝を避ける権利を保障する観点からも、政策間の整合性の観点からも、重視されるべきである。

① 原子力安全委員会は、平成23年8月4日付け「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故における緊急防護措置の解除に関する考え方について」において、上記ICRPの2007年勧告に基づき、避難区域の解除について、「長期的には参考レベルとして年間1ミリシーベルトを目指して、合理的に達成可能な限り低減する努力がなされること」を条件として求めている。

② 政府原子力災害対策本部は、平成23年8月9日付け「避難区域等の見直しに関する考え方」において、「長期的な目標として追加的な被曝量を年間1ミリシーベルト以下とすることをめざし、特に放射線の影響が成人より大きい子どもについては一層迅速な取組を進める」ことを基本的な考え方として示している。

③ 平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(放射性物質汚染対処特措法)および汚染廃棄物対策地域の指定の要件等を定める省令は、1時間あたり0.23マイクロシーベルト(環境省の換算式で年間1ミリシーベルト(環境省「追加被曝線量年間1ミリシーベルトの考え方」(第1回安全評価検討会・環境回復検討会合同検討会資料)))未満との基準を満たさない地域について、環境大臣が、本件事故に由来する放射性物質による環境の汚染を重点的に調査測定することが必要な地域(汚染状況重点調査地域)に指定し、同地域について都道府県知事等が除染実施計画を定め、除染を実施することとしている。これに基づき、宮城県から千葉県まで現在100の自治体が汚染状況重点調査地域に指定され、除染が行われている。

④ 厚生労働省は、平成24年3月15日、食品衛生法に基づく「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)を改正し、一般食品の放射性物質濃度について、1キログラムあたり100ベクレルを越えてはならないものと定めた。これは、食品からの被曝の上限を年間1ミリシーベルトに引き下げることを基本として定められた(厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値」)。

オ まとめ

以上の通り、本件事故以前から、放射線防護に関する国際的基準および国内法令の定めとして、一般人については年間1ミリシーベルトを越える被曝をしない権利が保障されてきたものであり、この数値は、原子力事故後の放射線防護に関する国際基準や、本件事故後に政府が定めた各種放射線防護に関する線量基準とも合致するものである。

したがって、法1条および8条が定める「一定の基準」とは「年間追加被曝線量が1ミリシーベルトに達するおそれがあること」であること意味しており、政府は、これに基づいて基本方針を定めるべき義務を有している。

カ 補論:法13条2項の「一定の基準」について

なお、法13条2項は、「子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む。)及びこれに準ずる者」について、生涯にわたって健康診断が行われるよう必要な措置を国に義務付けている。同項が定める「一定の基準」は、将来にわたって健康診断が行われるべき者の基準となる放射線量を定めるものであり、健康上の不安を解消するとの法の目的からすれば、同項の「一定の基準」は、これまで論じてきた法1条、8条に基づく「一定の基準」を下回りこそすれ、これを上回ることはあり得ない。

以下では、法13条2項の「一定の基準」についても、「年間追加被曝線量が1ミリシーベルトに達するおそれがあること」を意味することを前提として論じる。

(4)原告らが法1条の「被災者」に該当すること

原告らは、いずれも、本件事故が発生した当時、福島県中通り(伊達市、福島市、郡山市)、同県いわき市、宮城県丸森町、栃木県那須塩原市に在住しており、これら原告らの居住地は、いずれも年間1ミリシーベルト以上の被曝をするおそれのある地域であって、法が定める支援対象地域に該当する。

したがって、原告らは、支援対象地域に居住し、または居住していた者であって、法1条が定める「被災者」に該当する。

 

6 法の施行後1年以上を越えて基本方針を策定しないことが違法であること〔請求の趣旨第1項〕

(1)政府による基本方針策定の著しい遅延

既述のとおり、政府は、基本方針を策定し、支援対象地域に関する事項及び被災者生活支援等施策に関する基本的な事項等を定める責務を負う(法5条1項、2項)。

この基本方針で定める、「支援対象地域」は、支援の対象者を定めるものであり、被災者生活支援等施策は、支援の内容を定めるものであるから、基本方針の策定は、法を実施するうえで、極めて重要である。

しかるに、政府は、成立から1年2ヶ月以上が経過した今も、基本方針の骨子すら示していない。

そればかりか、基本方針の策定にあたっては、地域の住民、当該地域から避難している者等の「意見を反映させるために必要な措置」が講じられることとなっているにもかかわらず(同条3項)、当該措置として想定される被災当事者に対する正式なヒアリングの機会すら一度も設けられていない。

(2)法の附則は1年以内の基本方針策定を前提としていること

そもそも法は、その附則で、「国は、・・・毎年支援対象地域等の対象となる区域を見直す」ものと定めている(下線部引用者)。

これは、1年に1回、基本方針のうち支援対象地域に関する事項を見直すものを定めるものであるところ、その当然の帰結として、基本方針の策定は、法の成立から1年以内になされることを予定しているものといえる。

だとすれば、遅くとも、同法の公布から1年が経過した平成25年6月27日までに基本方針を策定しなければならないのであって、これを超えて基本方針を策定しないことは違法である。

(3)他の法律においても基本方針はほぼ1年以内に策定されていること

このように考えることは、基本方針の策定時期に関する過去の例からも相当だといえる。

すなわち、電子政府の総合窓口で検索すると、「基本方針」を「定めなければならない」又は「定めるものとする」など、基本方針がその法令に基づいて策定されることが予定され、その旨が規定されているもの(都道府県ごとに異なるもの、企業・法人等によって定められることを予定しているものを除く)は、過去に156件程度存在するものと考えられるところ、法の施行日(法改正の施行日を含む)から最初の基本方針策定までの日数が1年以内か否かを整理すると、下記「A 集計結果」記載のとおりとなる。これをグラフにしたものが、「B グラフ」である。

 

A 集計結果(2013年7月31日現在)

1年以内に定められているもの

146

1年以内に定められていないもの

7

不明

3

総計

156

B グラフ

これによると、94%の法律において、基本方針が1年以内に策定されていることが分る。

また、1年以内に定められていないものとしては、例えば以下の法律があるが、1年を経過した合理的な理由が見いだせるものとなっている。

(4)法に基づく基本方針不策定に何ら合理的な理由がないこと

これに対して、原発事故・子ども被災者支援法は、基本方針の策定にあたって、地域の住民、当該地域から避難している者等の「意見を反映させるために必要な措置」を求めているものの、当該措置すら一切行っていない本件では、1年以内に基本方針を策定できなかった合理的な理由は何も見いだせない。

むしろ、各種メディアの報道によれば、平成25年3月8日、復興庁で基本方針の策定を担当していた水野参事官が匿名のツイッターアカウントにおいて、「今日は懸案が一つ解決。正確に言うと、白黒つけずに曖昧なままにしておくことに関係者が同意しただけなんだけど、こんな解決策もあるということ(平成25年3月8日付)と書き込んでいたことからすれば、復興庁は、基本方針の策定を意図的にたな晒しにしていたものと考えるのが自然であろう。

なお、同月15日には、「原子力災害による被災者支援施策パッケージ」が復興庁により発表されているが、これが基本方針に代わるものでないことは言うまでもない。事実その内容も、平成24年3月をもって中止された自主避難者向けの高速道路の無償化措置が限定的に復活したほかは、従前政府が行ってきた施策を整理したものに過ぎず、その内容も、福島への帰還を促進する施策に偏っている。

(5)まとめ

以上のとおり、法が1年以内の策定を予定していること、基本方針策定の過去の例に照らしても1年以内に策定すべき義務を有していること及び不策定に何ら合理的な理由がないことのほか、基本方針が、被災者の生活・健康管理に対する支援という重要な法益を対象としていることに鑑みれば、被告が、遅くとも平成25年6月27日までに、原発事故子ども・被災者支援法第5条の基本方針を定めないことは違法である。

 

7 原告らが法に基づく生活支援等施策の利益を受けることができる地位にあること〔請求の趣旨第2項〕

原告らは、政府が基本方針を策定しないことで、概要、以下の損害を被っている。

(1)原告●

(略)

(2)原告●

(略)

(3)原告●

(略)

(4)原告●

(略)

(5)原告●・原告●

(略)

(6)原告●

(略)

(7)原告●

(略)

(8)原告●

(略)

(9)原告●・原告●

ア 原告●・原告●の本件事故による被害

原告●及び原告●(以下それぞれ「原告●」・「原告●」といい、併せて「原告●ら」ということがある。)は、夫婦である。原告●らは、本件事故当時、2歳の長女と3人で、福島県福島市にある自宅に居住していた。

原告●は、本件事故当時、次女を妊娠しており、平成23年4月●日に次女を出産した。本件事故を知った当時、原告●は、原告●の主治医と相談し、また、交通機関の状況を考慮して、福島県福島市に留まった。原告●と原告●が居住していた福島市●は、福島市渡利地区に隣接しており、福島市内で最も放射線量の高い地域の1つであった。そのため、平成23年11月下旬から約1ヶ月半と平成24年3月上旬から約1ヶ月間の2度にわたり、原告●、長女及び次女は、原告●の実家のある岡山県●市へ一時的に避難をした。しかし、その後も同地の放射線量は低下せず、平成24年9月には、原告●らは、家族全員で岡山県●市に避難をした。

イ 法に基づき受けることができたはずの各施策

① 法8条1項は、被告が、支援対象地域で生活する被災者を支援するために、家族と離れて暮らすことになった子供に対する支援に関する施策を定めている。

原告●、長女及び次女が岡山県●市に一時的に避難した際、長女は、原告●と離れて暮らす精神的ストレスから情緒不安定になった。

ところが、被告は、家族と離れて暮らすことになった子供に対する支援について何らの施策を講じていない。

② 法9条は、被告が、支援対象地域から移動して支援対象地域以外の地域で生活する被災者を支援するために、支援対象地域からの移動の支援に関する施策を行うことを定めている。

原告●らは、原告●と子供が一時避難する際の避難に係る移動費用及び一時的に避難した実家への滞在費用、岡山県●市に引っ越す際の引っ越し費用及び移動費について、すべて自己での負担を余儀なくされている。

ところが、被告は、避難に要する費用について十分な施策を講じていない。

③ 法9条は、被告が、支援対象地域から移動して支援対象地域以外の地域で生活する被災者を支援するために、移動先における住宅の確保に関する施策を行うことを定めている。

原告●らは、移動先である●市の借り上げ住宅について調べた結果、入居期間及び入居条件に制約があり、いずれ入居先の確保が再び必要になること等の理由から借り上げ住宅への入居を見送らざるを得なかった。そのため、原告●らは、避難先の岡山県●市の住宅費用の支出を余儀なくされており、負担となっている。

ところが、被告は、原告●らによる住宅確保を支援するために何らの施策を講じていない。

④ 法9条は、被告が、支援対象地域から移動して支援対象地域以外の地域で生活する被災者を支援するため、移動先における就業の支援に関する施策を講じることを定めている。

原告●らは、廃業こそ免れたものの、支援対象地域における顧客や取引先の大部分を失い、新たな顧客や取引先の開拓を余儀なくされている。

ところが、被告は、原告●らの●市における就業の支援に関する施策を何ら講じていない。

⑤ 法13条2項は、国が、被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策を講じるものと定めている。

原告●ら、長女及び次女は福島県が実施する県民健康管理調査の対象となっており、被曝線量の把握を目的とする基本調査、小児甲状腺がんの発見を目的とする甲状腺エコー検査及び一定程度の内部被曝を測定するためのホールボディーカウンターによる検査を受けている。しかし、それ以外の疾病を発見するための尿検査、血液検査、心電図検査などは実施されていない。平成24年2月下旬、原告●及び原告●は長女及び次女の尿検査を自己負担で実施した。

ところが、被告は、放射線による健康への影響に関する調査について十分な施策を講じていない。

⑥ 法13条3項は、国が、子供及び妊婦が医療を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策を講じるものと定めている。

原告●は事故当時次女を妊娠中であり、出産育児一時金を超える出産費用は自己負担した。

ところが、被告は、子供及び妊婦が医療を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免することについて何らの施策を講じていない。

(10)原告●

(略)

(11)原告●

(略)

(12)原告●・原告●

(略)

(13)原告●

(略)

(15)原告●

(略)

(16)原告●

(略)

(17)原告らが確認の利益を有すること

以上のとおり、法は、被災者である原告らの本件事故による生活上の負担を軽減するために、被告が法5条1項に基づき基本方針を定め、上記(1)ないし(16)に記載した法が定める各施策を講じ、原告らは、これら各施策の利益を受けることが予定していた。

ところが、被告は、原告らによる度重なる要請にも関わらず、法5条1項に基づく基本方針を定めず、上記イに記載した法が定める各施策を何ら講じておらず、原告らは、これにより上記(1)ないし(16)記載のとおり現実の不利益を被っている。

よって、原告らは、上記(1)ないし(16)に記載した法が定める各施策の利益を受ける地位にあることの確認を求める利益を有している。

 

8 国家賠償請求が認められること〔請求の趣旨第3項〕

政府による基本方針の不策定は、公務員による公権力の行使であるところ、上記6で記載したとおり違法性が認められるのであって、国家賠償法上も異なるものではない。また、国は、故意に基本方針の策定を1年以上にわたり怠っている。

その結果、原告らは、上記7記載の損害を被っているのであって、その金額は、原告らそれぞれにつき1円を下るものではない。

よって、原告らは、被告に対して、国家賠償法1条1項に基づき、少なくともそれぞれ1円(合計19円)の損害賠償請求権を有する。

 

9 結語

以上より、原告らは、「第1 請求の趣旨」記載の判決を求める。

 

以上

 

 

 

(別紙)

請求の趣旨一覧

 

原告名

施策

※訴状7(1) 8条1項が定める自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策
※訴状7(2) 8条1項に定める家庭、学校等における食の安全及び安心の確保に関する施策、同条1項が定める自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策、9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策および移動先における住宅の確保に関する施策、13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策ならびに13条3項が定める被災者たる子ども及び妊婦が医療を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策
※訴状7(3) 8条1項に定める家庭、学校等における食の安全及び安心の確保に関する施策、同条1項が定める自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(4) 8条1項が定める自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策および13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(5) 7条1項が定める6条1項の調査の結果を踏まえ、放射性物質により汚染された土壌等の除染等の措置を継続的かつ迅速に実施するため必要な措置、8条1項が定める自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策および家族と離れて暮らすこととなった子供に対する支援に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(5) 7条1項が定める6条1項の調査の結果を踏まえ、放射性物質により汚染された土壌等の除染等の措置を継続的かつ迅速に実施するため必要な措置、9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策および13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(6) 8条1項に定める家庭、学校等における食の安全及び安心の確保に関する施策、同1項及び4項に定める放射線量の低減及び生活上の負担の軽減のための地域における取組の支援に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(7) 9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策および移動先における住宅の確保に関する施策および、移動先における就業の支援に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(8) 9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策および移動先における住宅の確保に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(9) 8条1項が定める家族と離れて暮らすこととなった子供に対する支援に関する施策、9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策、就業の支援に関する施策および移動先における住宅の確保に関する施策、13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策ならびに同条3項が定める被災者たる子ども及び妊婦が医療を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策
※訴状7(9) 8条1項が定める家族と離れて暮らすこととなった子供に対する支援に関する施策、9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策、就業の支援に関する施策および移動先における住宅の確保に関する施策、13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策ならびに同条3項が定める被災者たる子ども及び妊婦が医療を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策
※訴状7(10) 8条1項が定める食の安全及び安心の確保に関する施策、自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策および家族と離れて暮らすこととなった子供に対する支援に関する施策、9条が定める移動先における住宅の確保に関する施策および家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(11) 9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策および移動先における住宅の確保に関する施策および、移動先における就業の支援に関する施策ならびに13条3項が定める被災者たる子ども及び妊婦が医療を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策
※訴状7(12) 9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策、移動先における住宅の確保に関する施策、移動先における就業の支援に関する施策および13条3項が定める被災者たる子ども及び妊婦が医療を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策
※訴状7(12) 9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策、移動先における住宅の確保に関する施策、移動先における就業の支援に関する施策および13条3項が定める被災者たる子ども及び妊婦が医療を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策
※訴状7(13) 9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策、移動先における住宅の確保に関する施策および移動先における就業の支援に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(14) 9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策および移動先における住宅の確保に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(15) 9条が定める支援対象地域からの移動の支援に関する施策および移動先における住宅の確保に関する施策ならびに13条2項が定める被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査について必要な施策
※訴状7(16) 8条1項に定める子どもの就学等の援助に関する施策および家庭、学校等における食の安全及び安心の確保に関する施策、同1項及び4項に定める放射線量の低減及び生活上の負担の軽減のための地域における取組の支援に関する施策、同1項が定める自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策ならびに9条が定める移動先における住宅の確保に関する施策

 

 

 

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